【NPOインタビュー】特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパン

%e5%86%99%e7%9c%9f%e3%83%88%e3%83%aa%e3%83%9f%e3%83%b3%e3%82%b0%e4%bf%ae%e6%ad%a3%e5%be%8c%e3%82%a4%e3%83%a1%e3%83%bc%e3%82%b8特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパンの事務局長である中島 佳織さんにお話を伺いました。(2016年8月19日)

Q. 「フェアトレード」という言葉は最近ではよく耳にするようになりましたが、改めて「フェアトレード」とは何かについて教えていただけますか。

A. 「フェアトレード」は直訳すれば「公正な貿易」です。戦後間もなく、1946年にアメリカの市民団体「テン・サウザンド・ビレッジ」が、現地(プエルトリコ)の人々の生活支援のために刺繍製品を購入し、アメリカで販売する活動を開始したことが、その始まりと言われています。その後、主に手工芸品の販売で各地に活動が広まっていきました。やがて、1970年代~1980年代にかけて、農産物であるコーヒーをフェアトレードとして取り扱う団体も出てきます。手工芸品と違い、国際貿易産品であるコーヒーのフェアトレード取引を広めていくためには、一般の企業でも取り組める明確な基準化と、スーパーマーケットなど店頭に商品が陳列されたときに、ひと目でフェアトレード商品であることがわかる共通の印が必要だという考えが生まれてきます。コーヒー生産者らの「自分たちが作ったコーヒーを適正な価格で買い取ってもらえさえすれば、援助などなくても我々は自立できる」という声も受け、1988年に初めての「フェアトレード・ラベル」がオランダで誕生しました。その後、日本でも1993年から「フェアトレード・ラベル(現在の正式名称は国際フェアトレード認証ラベル)」が導入されています。

Q. 「国際フェアトレード認証ラベル」では何をもってフェアトレードとしているのでしょうか。

A. 現地の人が生産したコーヒー豆、バナナ等の原材料を適正な価格で買い取ることがまず重要です。フェアトレード認証を得ている企業は、現地生産者のコーヒー豆等の生産物の市場価格が暴落した場合でも、フェアトレード基準で定める最低価格以上を保証して買い取ることが義務付けられています。また、買い取り後も途中で非認証品が混合することがないよう、フェアトレードを取り扱う企業(組織)には、貿易・製造・販売のどのプロセスにおいても、監査・認証を受けることが求められます。なお、認証を受けるための具体的な基準としては、「経済」「社会」「環境」の3つが特に厳しく定められています。
これまでの地道な取り組みの結果、フェアトレード認証を受けている生産者組織は1200以上、参加する生産者・労働者数は160万人以上まで増加し、世界125カ国以上に流通しています。【下図】
%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%84%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%97

Q. 現在、国際フェアトレード認証ラベルは世界でどの程度認知されているのでしょうか。

A. 国際フェアトレード認証製品の市場規模は年々拡大しており、2015年実績では推定で約9,812億円(73億ユーロ)にまで成長しています。
国際フェアトレード認証製品の消費者は主に先進国の人々ですが、中でも欧州では非常に認知度が高く、90%以上の人が認証ラベルを認知している国々も多数あります。
欧州でフェアトレードに積極的に取り組んでいる企業では、フェアトレードは単に意識の高い消費者向けの製品としてではなく、自社が持続的に成長していくために全社で取り組むべき経営課題として捉えられています。
例として、世界最大の食品・飲料会社ネスレでは、イギリス・アイルランド市場で販売しているキットカットの原材料に含まれるカカオと砂糖は、国際フェアトレード基準を遵守したものを使用しています。そして驚くことに、フェアトレード認証製品であるにも関わらず、認証取得以前の価格から変更していません。値上げしないで製品を提供するには、組織横断的な調達戦略の見直しが必要になるはずで、取り組みに対する本気度がこのことからも伺えます。
一方で日本国内に目を向けると、国際フェアトレード認証ラベルの認知度は25%程度であり、普及が進んでいる欧州から遅れを取っている現状があります。

Q.日本で国際フェアトレード認証ラベルの認知が遅れているのにはどんな理由が考えられますか。

A. そもそも企業の貿易や個人の消費行動が、世界の貧困問題に影響しているという意識をもつ機会が少なかったのが原因だと思います。生産者側の状況においても、アジアは、ラテンアメリカやアフリカ地域に比べ、フェアトレード認証に参加している生産者組織が少ないです。それは日本を含め、アジア圏内でのフェアトレードの普及が十分でなく、バイヤーがフェアトレード条件で買ってくれない中で、生産者が自らわざわざ苦労して認証を取得しようとはならないことが要因の一つです。
ただ、近年グローバル化が進んだことによって状況が変化しつつあります。学校の英語・家庭科・公民・地理などの教育科目でフェアトレードのことが教科書に掲載され、2008年頃からは高校や大学の試験問題にも出題されるようになりました。このことで、若者にはかなり浸透してきているのです。
また、2014年にフェアトレードのカカオ・砂糖・コットンの取引拡大を目的にした「国際フェアトレード認証調達プログラム(Fairtrade Sourcing Programs)*」を新たに開始した際には、イオン株式会社がアジア初の参加企業となり、フェアトレード認証カカオ豆の取引を2020年までに10倍(2012年比、目標50トン相当)に拡大することを打ち出しました。
2015年は、国際フェアトレード認証製品の国内の年間市場規模が100億円(対前年比107%)を超え、原料の輸入や製造・販売に携わる企業・団体数 も178(対前年比107%)と増加しています。今後、東京オリンピックに向けて、さらに認知度を向上していきたいと考えています。

Q. 製造や流通に関わっていない企業でもフェアトレードに関して何かできることはありますか。

A. 自動車業界、情報通信業界、電機業界等、必ずしもコーヒーやカカオなどの農産物とは関係のない業界であっても、社員食堂や来客用のコーヒーをフェアトレードに切り替える企業が増えています。他にも、株式会社NTTデータでは、株主総会参加者のお土産にフェアトレードのケーキを用意して好評だったという話も聞きました。また、ケニアから輸入されているフェアトレード認証のバラもあるのでイベント等で使用される企業もあります。
フェアトレード認証の対象産品は幅広く色々なものがあるので、企業としてSDGsの目標達成にどのように貢献できるかを考えて、その貢献に関連する製品はないか、考えてみるとよいのではないでしょうか。【下図】
%e3%83%95%e3%82%a7%e3%82%a2%e3%83%88%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%83%89%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%84
*「国際フェアトレード認証調達プログラム(Fairtrade Sourcing Programs)」
企業が特定の単一(時には複数)原材料にフォーカスし、製品単位ではなく、むしろ事業全体、製品ラインナップ全体に幅広くフェアトレード認証の原材料を組み入れていくことにコミットする仕組み。本プログラムに参加する企業は、複数年に渡ってフェアトレード認証原材料の調達量を増やしていく目標を設定する。このプログラムを通じて、さらにフェアトレードの取引量が拡大することが期待される。