明治学院大学の教授であり、日本NPO学会の理事も務められている原田勝広様にお話をお伺いしました。(2014年2月18日)
Q:原田先生は、日本経済新聞に定年までお勤めになり、NPO/NGOに関する記事を多数書かれたり、企業のグローバル社会における役割を問うGSR(Global Social Responsibility)という概念を提唱されたりしていました。日経新聞では異色の記者といってもよいかと思うのですが、その経緯についてお聞かせください。
A:私の場合、入社当初から社会部を希望していたぐらいですから、自分が日経の記者だということをあまり意識していませんでした。そして、西部支社や社会部を経て、サンパウロの特派員となり、中南米の国際社会問題に関わるようになりました。
その後、ニューヨーク支局に転勤となり、日経新聞で第一号の国連担当記者となりました。ときは1992年。ソビエト連邦崩壊の直後で、世界の歴史が大きく変わっていたときであり、グローバルガバナンスの核として国連が注目されていました。また、明石康さんや緒方貞子さんが国連幹部として活躍していたときでもあり、日本でも盛り上がっていました。私は国連を追っかけて、カンボジアやボスニアなど世界の紛争地を取材してまわりました。
そうした現場に出向いて気づいたのが、NGOの存在の大きさです。難民キャンプなどでは世界中から多くのNGOが駆けつけていて、国連はNGOと協力しながら役割分担をしていくのです。国連の役割は資金提供とコーディネーションであり、実際に動いているのはNGOでした。
それまで日本のNGOのことなどほとんど知らなかったものですから、1995年に日本に帰任してからは、日本にどういうNGOがあるのか、自分の足で取材してまわりました。すると、ピースウィンズ・ジャパンとかJENとか、日本にもそこそこのNGOがあることがわかりました。
そこで、「NGO駆ける」という記事を日経の夕刊に連載することにしました。社内では、「朝日新聞じゃあるまいし、なぜ日経がNGOを?」といった疑問の声もあがりましたが、とりあえず1か月やってみようということになり、やってみたら評判が良かったので、もう2か月連載は続き、記事の数は60本に及びました。これらの記事をまとめて「こころざしは国境を越えて―NGOが日本を変える」という単行本を出版もしました。
Q:そして、原田さんはNGOと企業の橋渡し役になられました。
A:当時、日本のNGOは世界水準で見ると、規模も力も小さく、国連にも認められるような存在ではありませんでした。そのことを何とかしたい思っていたピースウィンズ代表の大西さんが、政府、経済界、NGOが「三位一体」で協力しあうプラットフォームを立ち上げるという構想をお持ちでした。そのことを日経新聞のコラム記事で紹介したところ、それを読んだという大蔵省(当時)の主計官から電話がかかってきました。、その後、経団連、外務省も巻き込み、2000年にジャパン・プラットフォーム(※)が設立されたのです。
※ジャパン・プラットフォーム:NGO、経済界、政府が対等なパートナーシップの下、三者一体となり、それぞれの特性・資源を生かし協力・連携して、難民発生時・自然災害時の緊急援助をより効率的かつ迅速におこなうためのシステム (ジャパン・プラットフォームのホームページより引用)
ジャパン・プラットフォームの設立によって、緊急時には事前に用意された資金がNGOに配分され、政府も情報提供や後方支援で、経済界も本業で支援に参加する画期的な仕組みができました。
ちなみに、その電話をかけてきた大蔵省の役人の村尾さんは、今、日本テレビのニュースゼロのメインキャスターをやっています。
Q:先日、私は、シリア難民キャンプに行きましたが、日本のNGOも国連から大きな役割を任されるまでになっていました。やはりメディアの力は大きいですね。企業のCSR活動についてはどのようにご覧になっていますか?
A:ジャパン・プラットフォーム設立に関わった経験をきっかけに、企業のCSRに対する取材活動を始めました。CSR元年といわれる2004年より前は、CSRといえば、寄付+環境対策+コンプライアンスという「狭いCSR」しか行っていない企業がほとんどでした。
2004年以降は、著名経済学者のジェフリー・サックスらの呼びかけなどにより、企業が世界にもたらしうるインパクトの大きさが注目されるようになりました。国連グローバル・コンパクトやMDGs(ミレニアム開発目標)が制定され、企業、NGO、国連の間の対話の基盤ができあがり、企業のグローバルなCSR活動が促進されました。企業の考え方は、受け身で狭いCSRではなく、「自社のリソースを使って、社会の課題をどう解決できるか」という積極的で前向きなCSRに発展したのです。
2009年に始めた「GSR (Global Social Responsibility)プロジェクト」を日経新聞で主催したことは、「資本主義は社会的弱者の敵ではなく、味方になりうる」というメッセージになったので良かったと思います。
そして今や、ソーシャルビジネス、BOPビジネス、インクルーシブ・ビジネス、CSV、クラウドファンディング、ソーシャルインパクトボンドなど、様々な考え方や手法が生まれています。多くの企業や若者、そしてCALPASなどの一部の投資家がそろって、「ビジネスの力で社会課題を解決する」ということを考える時代になりました。
もっとも、これは企業の原点に戻ったともいえます。今の大企業の創業者たちは、金儲けのためではなく、社会のために会社を立ち上げたのだと思います。それが、段々、利益を上げることに傾注していってしまった。
Q:日本のNGOについてはどう思われますか?とてもがんばってはいますが、欧米のNGOに比べると、規模はまだまだ小さいです。
A:欧米の主流NGOと比べて規模は10分の1以下ですね。これを言うと、NGOの人たちは怒るのですけども、提携や合併をして規模を大きくしてはと思うのです。国際的な競争力をつけ、よりよい援助を目指すのです。企業は分社化したり合併したりしますが、NGOは分裂しかしません。
また、日本のNGOは、いい仕事をしていますが、それを広報する力が弱いと感じます。日本人は陰徳を良しとするせいでしょうか。
それから、専門性があまりなく、似たようなことを皆やっています。衛生とか教育とか、分野を決めて専門性をもっと高めるべきです。そして、企業との協働をもっとするとよい。ただ「寄付してくれ。あとは自分たちでやるから」ではなく、どういう支援のニーズがあって、どう企業が貢献しうるかを企業に伝えるべきです。先ほど言ったように、企業側の考え方も大きく変わってきて、企業も社会貢献の輪の中に参加したいと思っているのですから。東日本の震災では、企業がそのなせる業を見せつけました。たとえばクロネコヤマトが物資をくまなく配達したりなど、NGOにはとても真似できない活躍でしたね。NGOも、企業を巻き込んで上手くお金をまわす仕組みを考えるようにしないと、企業のCSR活動に負けてしまいます。
Q:若い人たちはどのように考えているのでしょうか。
A:私が8年前に今の大学で教え始めたときは、NPOとかNGO、国連のことをテーマとしてあげていました。今の学生は、それよりも、社会起業家への関心がずっと強いですね。単に寄付するではなく、社会課題の解決にビジネス手法でに役立ちたいと思っているのです。これからは、こういう共感者を集め、同じ方向を向いて共に進んでいくことが鍵となるでしょう。